【ミラノ滞在記】 日本を発って1か月が過ぎた今の私
怒涛のファッションウィークも終わり、すっかり落ちつきを取り戻したミラノのモデル業界。 あれほど暑苦しく見えた街並みも今じゃ少し肌寒さを感じるくらい何だかひんやりとしている。 私はというと、ぼちぼち入るキャスティングをこなしたり、撮影を組んだりしながら、ゆっくりとした時間を過ごしている。 そうか、日本を発って1か月が過ぎたんだなぁ、と近所のカフェでコーヒーを飲みながらさっき気が付いた。 この1か月は刺激過多で何かをゆっくりと考える時間もなく、常に目の前のことに追われていた。 そうしてやっと落ち着いた今になって自分の身に起こったことを一つ一つ消化している。 正直、あっという間の1か月だった。 だけど、台湾やパリ、ロンドンにいた頃がずっと昔のことのように思える。この1か月で4か国も滞在したのか、と今さら驚いたりもする。 そして、ファッションウィーク中に見たものをじっくりと反芻する。 ヨーロッパのファッション業界のスケールの大きさを目の当たりにし、自分自身とモデルという職業ついて改めて考えさせられた2週間だった。 目標だったミラノのコレクションには出ることはできなかった。 そもそもショーのキャスティング自体が少なすぎたとか、ミラノに着くのが遅すぎたとか、情報が足りなかったとか、色々な言い訳が浮かんでくるが、いや、どれも違う。 単純に私がそのレベルに至っていなかった。 実力も努力も準備も全てが足りていなかった。 悔しいけれど、それが答えだ。 今はこれからの私について考える時期がきていて、まずは残りのミラノの滞在の過ごし方を考えている。 コレクションに出るという目標を達成することはできなかったが、ここで終わったわけではない。 何かを掴まずして帰れまいと、色々と働きかけてはいる。 ただ滞在も後2週間ほどなので、たくさんのことに取り掛かるのは難しいかもしれない。けれど最後まで諦めず、出来るだけ色々なことに挑戦したいと思う。 その後はイタリア、スペイン、ギリシャを旅する予定だ。私の心の在り所でもあるシンガポールにも出来れば寄りたいと思っている。 スケジュール帳を眺めては、飛行機とホテルのブッキングに追われる毎日だ。 日本に帰ってからのことも何となくの枠組みは浮かんではきた。これからじっくりと向き合っていかなければいけないなぁとぼんやりと思う。 何だかんだでしなければいけないことはたくさんあるのだが、ただ今はゆっくりとしたこの時間を少しだけ楽しもう。 そう思って、近所のカフェに来た。 Wifiもないような小さなローカルのカフェだ。 現在、17:33。 ミラノの日が沈むのは遅い。 近所の人たちがカフェで一息ついて、それぞれの時間を過ごしている。 年齢のわりにはこれまでたくさんの国で過ごしてきたと思う。 各国には観光名所やら、絶景スポットやら、素晴らしい場所がたくさんあって、そのような所に行って感動する経験もまぁまぁしてきた。 けれど私はこういう時間や場所が一番好きだ。 その国の飾らない生活の一部に溶けこんだときに、その国を本当の意味で知ることができる。 これこそが私にとっての海外で暮らす醍醐味であり、かけがえのない時間だ。旅行では見えない何が見える。 この土地を去る時は近い。 もう二度と味わうことのないかもしれない、ミラノでのこの瞬間を目に焼き付ける。 あぁ、帰りたくないなぁ、なんて少し思ってカフェを出た。 残り、2週間。 このミラノという場所と今の私は、一度きり。 一発勝負だ。